事業承継・M&A補助金は、「申請すれば誰でも対象」という制度ではありません。どんな事業承継・M&Aが対象になり、どんなものが対象外になるのかが、公募要領で細かく決まっています。この記事では、対象になる事業の要件と、対象外になる例を、図を使って「対象」と「対象外」に分けて説明します。

ご注意:この記事は、公式の公募要領(第16次公募・事業承継促進枠/専門家活用枠)をもとにした、大まかな説明です。細かい条件や例外は、必ず最新の公募要領で確認してください。第16次公募の申請期間は2026年10月2日から11月6日17時までです。

はじめに:用語をやさしく言い換えます

  • 被承継者(ひしょうけいしゃ):会社や事業を引き継がせる側(今の社長など)
  • 承継者(しょうけいしゃ):会社や事業を引き継ぐ側(後継者や、買い手)
  • 経営権と所有権:会社を動かす権利(代表者の立場)と、会社を持つ権利(株式や持分)
  • デュー・ディリジェンス(DD):買う前に、相手の会社のリスクを調べること
  • 付加価値額:営業利益・人件費・減価償却費を足したもの。会社が生み出す価値の目安です

まず全体像:対象になるもの・ならないもの

補助の対象になるのは、「実質的に」事業や会社が引き継がれるものです。名前だけ変える、身内の中で組み替える、モノだけを売り買いするといったものは、原則として対象外になります。

事業承継・M&A補助金の対象になるもの・対象外になるものの全体像
図1:対象になる?ならない? 全体像

ポイント:枠の使い分け

親族や従業員に引き継ぐなら「事業承継促進枠」、第三者とのM&A(買う・売る)なら「専門家活用枠」です。どちらの枠も、実質的な事業の引継ぎがないものは対象外になります。

事業承継促進枠:対象になる事業の要件

親族や従業員に会社・事業を引き継ぐときの枠です。公募要領では、次のような条件をすべて満たす必要があります。

事業承継促進枠で対象になる条件と対象外になる例
図2:事業承継促進枠|対象になる条件・ならない例

対象になる条件

  • 後継者の経験:法人なら、その会社の役員または従業員として通算3年以上の経験があること。親族の場合は、その会社の代表経験がないこと
  • 承継される会社の実績:引き継がれる側の会社(対象会社)について、公募申請の時点で3期分の決算と申告が完了していること。個人事業主の場合は、開業届と青色申告承認申請書の提出から5年が経過していること(後継者側の条件ではありません)
  • 承継の時期:2026年11月6日から5年以内(2031年11月5日まで)に承継を終える予定であること。認定経営革新等支援機関に、承継の見込みを確認してもらった計画書が必要です
  • 承継のしかた:同じ法人の中での代表者交代(個人事業主は事業譲渡)で、経営権と株式(持分)のどちらも被承継者から承継者へ移ること
  • 事業の計画:5年間で付加価値額(または1人あたりの付加価値額)を毎年3%以上伸ばす計画であること。承継予定者が中心となって進める事業が対象です

対象外になる例

公募要領では、「実質的な事業承継が行われたとみなされない例」として、次のものが挙げられています。これらは原則として補助対象外です。

  • 経営権と株式の移転を伴わない、代表者の交代のみ
  • グループ内の事業再編
  • 物品・不動産などだけを持つ事業の承継
  • フランチャイズ契約(実質的にそうみなされる場合も含む)
  • 従業員などへののれん分け
  • 休眠会社や、事業の実態がない会社の代表者交代
  • 設立間もない法人や、開業直後の事業主からの承継で、正当性が確認できないもの
  • 承継後に、代表者が複数人になるもの

事業そのものの条件としては、次のものも対象外です。国の他の補助金・助成金と重複する事業、公序良俗に反する事業、風俗営業などの事業、そして農業・林業・漁業(第一次産業)の事業です。また、先代(被承継者)に支払う土地や資産の購入費などの譲受費用は、補助対象の経費にもなりません。

専門家活用枠:M&Aで対象になる事業の要件

第三者とのM&Aで、専門家に支払う費用などを補助する枠です。買い手を支援する「買い手支援類型」と、売り手を支援する「売り手支援類型」があります。

専門家活用枠のM&Aで対象になる条件と対象外になる例
図3:専門家活用枠(M&A)|対象になる条件・ならない例

対象になる条件

  • 買い手:譲り受けた後に、シナジー(相乗効果)を活かして生産性を上げ、地域の雇用や経済を引っ張る事業を行うことが見込まれること
  • 買い手:費用を補助の対象にするかどうかにかかわらず、デュー・ディリジェンス(DD)を実施すること
  • 売り手:地域の雇用を支える事業が、M&Aによって第三者に引き継がれる見込みがあること
  • 契約:補助事業期間内に、相手との基本合意書または最終契約書を結ぶこと
  • 申請する会社(補助対象者):申請する側が、法人なら3期分の決算と申告が完了していること。個人事業主なら、開業届と青色申告承認申請書の提出から5年が経過していること。
    ・買い手支援類型:申請するのは買い手(譲り受ける側)です。買い手に、この条件があります
    ・売り手支援類型:申請するのは売り手(譲り渡す側)です。株式譲渡の場合は、譲渡される会社(対象会社)と、その議決権の過半数を持つ株主が共同で申請します

Q. デュー・ディリジェンス(DD)を行わないM&Aは、対象外ですか?

A. 買い手支援類型では、DDを行わないと要件を満たさず、対象外になります。公募要領には、買い手支援類型の要件のひとつとして、補助対象経費にDD費用を入れるかどうかにかかわらず、DDを実施することと書かれています。

  • DD費用を補助対象経費に入れる場合:申請後の手続きで、実施予定のDDの見積書を出し、実績報告で証拠書類(DD報告書など)を出します。
  • DD費用を補助対象経費に入れない(自社で負担する)場合:実績報告のときに、DDを実施した証拠書類の提出が求められます。
  • DD費用を経費に入れて実施する場合は、補助上限額に200万円が加算されます。

なお、売り手支援類型については、公募要領にDDの実施を求める記載はありません(売り手の要件は、地域の雇用などを支える事業が第三者に引き継がれる見込みがあることです)。ただし、最新の公募要領で必ずご確認ください。

専門家活用枠のデュー・ディリジェンス(DD)が必要かどうか(買い手支援類型と売り手支援類型)
図:DDは必要?(専門家活用枠)

対象外になる例

次のようなM&Aは、「実質的な事業再編・事業統合が行われたとみなされない」ものとして、原則補助対象外になります。

  • グループ内の事業再編
  • 親族間の事業承継(事業承継促進枠の対象です)
  • 物品・不動産だけの売買
  • 取引価格が、専門家への費用に比べて低すぎて合理性が確認できないもの(0円の事業譲渡、株価1円の株式譲渡など)
  • 事業譲渡で、設備・従業員・顧客などのまとまりが引き継がれないもの
  • 株式譲渡の後も、承継者が持つ議決権が過半数に満たないもの
  • 休眠会社や、事業の実態がない会社のM&A
  • 開業直後の事業主からの事業譲渡で、正当性が確認できないもの

申請できない例として、M&Aの前にすでに承継者が議決権の過半数を持っている場合や、相手が同族関係者・支配関係のある法人である場合も挙げられています。常時使用する従業員1名以上の引継ぎがない場合は、要件を満たさないと判断される可能性があります。

工場の建物だけを買うのは、M&Aとして対象になる?

結論:原則、対象外です。建物や土地だけを買うのは、会社や事業を引き継ぐ「M&A」ではなく、「不動産の売買」にあたるためです。この補助金は、事業や会社が引き継がれること(経営資源の引継ぎ)が前提です。

公募要領では、次のようなものを「単なる不動産売買」として、対象外の例に挙げています。

  • 最終契約書が、不動産売買契約書だけの場合
  • 不動産と、それに付く契約を引き継ぐだけで、常時使用する従業員1名以上の引継ぎがない場合
  • 事業を営んでいない個人や個人事業主から、不動産だけを買う場合
  • 空き家(廃墟や相続した物件を含む)だけを、買う・売る場合
  • 賃貸物件(それに付く契約を含む)だけを、買う・売る場合
  • 株式や事業の譲渡を伴わず、物件を借りる権利(賃借権)だけを譲る場合
  • 補助の対象にしたい経費が、不動産の売買にかかる費用だけの場合

専門家活用枠では、事業譲渡の形をとる場合でも、設備・従業員・顧客などが、ひとまとまりで引き継がれていることが必要です。建物や設備などの「モノだけ」、ブランドやノウハウなどの「無形資産だけ」の譲渡は、原則対象外とされています。なお、事業承継促進枠でも、物品・不動産などだけを持つ事業の承継は対象外です(表現は枠ごとに異なります)。

工場を買いたいとき:対象になりやすい形・なりにくい形

  • 対象外になりやすい:工場の土地・建物だけを、不動産売買契約で買う
  • 対象になり得る:工場を使って事業をしている会社の株式を買う(株式譲渡)。または、工場の建物・設備・従業員・取引先を、まとめて引き継ぐ(事業譲渡)
  • 確認すること:従業員の引継ぎがあるか、事業の実態があるか。事業をしていない会社や、不動産だけを持つ会社の場合は、実態として不動産の取引とみなされるおそれがあります
工場を買うときに対象になる形・ならない形の比較(土地建物だけ、株式譲渡、事業譲渡)
図:工場を買うとき|対象になる?ならない?

最終的な判断は事務局が個別に行います。工場や店舗を買う予定がある場合は、契約を結ぶ前に、事業の引継ぎとして整理できるかを確認しておくことをおすすめします。

よくある勘違い

  • 「親族に会社を譲るのに、M&Aの枠は使える?」→ 親族間の事業承継は、専門家活用枠では対象外です。親族・従業員への承継は「事業承継促進枠」で検討します。
  • 「代表者を息子に変えるだけでも対象?」→ 経営権と株式の移転を伴わない「代表者の交代のみ」は対象外です。
  • 「工場の建物だけを買うのも、M&Aになる?」→ 物品や不動産だけの売買は、事業の引継ぎがないため、専門家活用枠・事業承継促進枠のどちらでも、原則対象外です。くわしくは、上の「工場の建物だけを買うのは、M&Aとして対象になる?」をご覧ください。
  • 「買い手として申請するが、DD(買収前の調査)はやらなくてもいい?」→ 買い手支援類型では、DDを実施しないと対象外です(費用を補助の対象にしない場合も、実施は必要です)。
  • 「事業承継促進枠と専門家活用枠を、同じ回に両方申請できる?」→ 事業承継促進枠の公募要領では、専門家活用枠・PMI推進枠との同一公募回での申請は不可とされています。なお、廃業・再チャレンジ枠は併用申請が可能です。

スケジュールのイメージ(第16次公募)

申請の期間と、承継や契約のタイミングを、図で整理します。事業承継促進枠は申請期日から5年以内に承継を終える必要があり、専門家活用枠は補助事業期間内に基本合意書または最終契約書を結ぶ必要があります。

第16次公募のスケジュール(事業承継促進枠の承継期限と専門家活用枠の契約タイミング)
図:スケジュールのイメージ(第16次公募)

申請の前に、これだけは確認

  • 自社の状況が、どの枠に当てはまるか(親族・従業員への承継か、第三者とのM&Aか)を整理する
  • 申請する会社の3期分の決算・申告が終わっているかを確認する(専門家活用枠は、買い手支援類型なら買い手、売り手支援類型なら売り手。事業承継促進枠は、承継される会社。個人事業主は、開業届等の提出から5年)
  • 契約・発注は、交付決定の後に行う(交付決定の前に払った費用は補助されません)
  • 国の他の補助金と、同じ内容で重複していないか確認する

枠ごとの対象者や公募スケジュールは、事業承継・M&A補助金とは?4つの枠と対象者を図で解説、必要書類は申請書類は?枠別の必要書類を一覧で解説、対象経費と期間は対象経費と対象期間は?図でわかる流れと注意点で解説しています。

事業承継・M&A補助金のご相談は、株式会社Saludへ

株式会社Saludでは、補助金の申請を支援しています。「自社の承継やM&Aが、対象になるか分からない」という段階から、お気軽にご相談ください。お問い合わせはこちら

監修者

堂本 拓央(株式会社Salud 代表取締役)

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